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これからの大学職員に必要なこと

投稿日:2025年 02月 19日

状況を認識する力

 大学職員が認識すべきこととして、業務を支障なく行うためであれば、当該業務遂行の方法やルールを認識していれば事足りることになるが、担当業務の方向性を決めるためであれば、当該分野の動向、例えば教務の仕事ならば、教学マネジメントの目指すものといったことを認識することが求められることになる。そして日常の業務を遂行する上では、このような認識があれば十分であるといえる。

 しかし、大学を取り巻く状況が、厳しい方向に変化していく中にあって、大学を良い方向に変えていくためには、さらに多くのことを認識していくことが必要となる。大学という、比較的、閉ざされた職場で働いていると、認識の範囲も狭くなりがちであるので、意識して広げていく必要がある。認識すべきことは、大学にとっての顧客のことや大学業界のこと、そして世の中の動向についてである。

 大学にとっての顧客は、視点を広げるといろいろな人が考えられるが、主たる顧客は在学生、そしてその前身である受験生、そして卒業後の姿である同窓生ということになるであろう。時系列で考えると、まずは受験生を認識することが求められることになる。学生募集を担当する部門の職員の場合、この認識は必須のものとなるが、きちんとできているケースは、そう多くはないように思われる。

 自学を受験先の一つとして検討しようと考えている受験生が、どのような状況にあるのか、どのようなことを重視して大学を選択しようとしているのか、大学での学びに対して、どのような期待を持ち、また不安を感じているのか、といったことを認識することが必要になる。このようなことが認識できていないと、どのようなことをアピールしたらいいのか、どのような情報を提供したらいいのかが分からないからである。

 ある経済系の大学はかつて、歴史のある街で学べるということを強くアピールしていた。もちろん歴史がある街は、文化的な風土もあり、学生生活を送るにはプラスの要素ではあるが、経済を学ぼうとする受験生が、そのことを大学選択の基準として重視するかということになると、重視しないケースの方が多いのではないだろうか。個性尊重○○大学といったキャッチコピーを、電車内の広告で見たことがあった。もちろん個性を尊重されないよりもされた方がありがたいことではあるが、同じく大学選択の基準となるかどうかは、はなはだ疑問であろう。

 学生募集部門の職員でも受験生認識が不十分であるとすると、募集に関わらない部門の職員の場合、受験生については、ほとんど認識していないというのが実情ではないだろうか。もちろん業務を遂行する上で、受験生を認識していないことによって生じる支障はほとんどないので、認識しようという意識さえ生じないことになる。これは大学に限ったことでなく、企業等の組織も同じであると思う。

 年に何度か、ものつくり企業の社員研修を担当することがあるが、営業などの直接顧客に接する部署以外の人たちは、日頃、顧客のことを考えるということは、ほとんどないようである。では、それで問題ないのかといえば、そんなことはないと思う。顧客のことを意識せずに製品をつくるのと、顧客のことを絶えず考えてつくるのでは、顧客にとって有用な製品となるかどうかに大きな違いが出てくることになると思う。

 ものつくり企業である本田技研工業の創立者、本田宗一郎氏も顧客理解の重要性をこう説いている。「人の心に棲むことによって、人もこう思うだろう、そうすればこういうものをつくれば喜んでくれるだろうし、売れるだろうということが出てくる。それを作るために技術が要る。すべて人間が優先している」と。大学の場合、まさに人をつくるための組織といえる。そうであるならば、その対象となる可能性のある受験生のことを、どの部門の職員であっても、認識し理解していくことが不可欠ではないかと思う。