大学の広報を再考する 2
投稿日:2018年 05月 27日
「大学の広報を再考する」続編を掲載します。
大学の広報を再考する(2)
減らせない広報予算
18歳人口の減少と、それにもかかわらずの大学数の増加により募集環境が厳しくなるにつれ、多くの大学では広報関係の費用が増加していると思われる。大昔は大学案内も有償で配布していたが、今はどこでも大変立派なものを無償で配布している。受験雑誌や受験サイトといったものの数も増えてきているので、主要なものに載せるだけでも相当程度の費用が掛かることになる。特に広報費の多くを占める受験雑誌や受験サイトの料金は、広告を載せる大学の規模に関わらないので、小規模な大学にとっては、少なからぬ負担になっているのではないだろうか。
駅構内の看板や電車内のポスターといった交通広告も、大学のものが目に付くようになってきている。我々は大学業界人なので、他の大学の交通広告は目に留まるのであるが、高校生や保護者といった人たちが、どれだけ見ているかは、はなはだ疑問である。それでも競合大学が交通広告を出しているならうちも、ということで掲出しているケースが多いのではないだろうか。
広報活動の効果を測定することは難しいことなので、「他がやっているから」、「これまでやってきたから」ということで継続しているケースも多いと思うし、やめたり減らしたりすることで、募集に悪影響が出るかもしれないという恐れから継続しているケースも少なくないと思われる。
このような状況を、受験生視点から見たらどうなのであろうか。情報というものは、意識のある時でないと受領できないものである。研修等で行うことであるが、参加者に腕時計をしまってもらい、各自の腕時計の盤面を再現してもらうことがある。腕時計をしている人は、一日に何度も腕時計を見るので、購入してから見ている回数は何万回にもなる人もいると思われる。それにもかかわらず、再現度合いは極めて低いのである。それはなぜかといえば、腕時計を見るときに意識していることは針の位置だけであって、それ以外の、どんな数字表示なのかとか、竜頭の位置、数といったことは意識していないからである。
これと同様、例えば駅構内に掲出されている大学の看板を高校生や受験生が見ているかといえば、彼らは駅構内を進学情報収集の場とは考えていないので、そのような情報を探そうという意識はないといえる。これは一般の人も同じといえよう。これを極論するならば、駅構内の看板は大学業界の同業者同士が見合っている看板ということになる。このようなものへの投資が、果たして有効なのであろうか。
適切な広報予算は
各大学がどの程度、広報活動に予算を費やしているのかを正確に知ることは難しいことであるが、私の限られた知見からの推測では、小規模な大学でも数千万円、学部がいくつかある中規模な大学では1億円程度になるのではないだろうか。これは、経理処理上、広報費以外に計上される大学案内等の印刷費や、高校訪問などの交通費なども含めての計算である。
この広報費が、大学の財政の中でどのような比率を占めているのかを考えると、在学生が千人程度の小規模大学であれば、学納金や補助金を合わせての年間収入が十数億円程度になると思われる。仮に広報関係の支出が六千万円、年間の収入が13億円とすると、4.6%となる。もちろん、大学の規模が大きくなるとともに収入も多くなるので、この比率は下がることになるが、今、募集に課題のある小規模大学では、収入の4―5%を広報関係の支出に充てていると考えていいと思う。
これを一般企業との比較で考えてみると、どうだろうか。東洋経済新報社が2017年9月に発表した広告宣伝費が多い会社のランキングを見てみると、トップがトヨタ自動車で4487億円、売上高との比率では1.6%となっている。また、トップ100社の中で、比率が最も高いのは73位のファンケルで15.3%、次いで47位のロート製薬の14.4%となっている。やはり、個人消費者にある程度の頻度での購入を望む企業の広報費比率は、高くなることになる。
大学と似ている業界として考えられるのは、個人消費者を対象としているが、ある程度以上の価格で、購入頻度もあまり多くないという商品を扱っているところということになる。それに該当するのは、自動車や住宅ではないだろうか。まず自動車業界を見てみると、前述のトヨタが広報費比率1.6%、日産自動車が2.6%、三菱自動車が4.3%、いすゞ自動車、日野自動車は共に0.2%となっている。住宅では、積水ハウスが1.2%となっている。
いすゞと日野の比率が低いのは、バスなど、個人以外を対象とした商品を多く扱っているので、広報の対象が限定されるという事情によるのではないかと思われる。その意味では、大学も広報の対象は限定されているので、事情は同じといえよう。
また、地方の小規模大学との比較という観点から、知人が役員をしている地方の自動車販売会社に聞いてみたところ、年間売り上げ約200億円に対して、広告宣伝費は約2億円、比率では1%とのことであった。それでも会社の諸経費の中では、広報費を多く使っているという感覚はあるといっていた。
このことから考えられるのは、大学、特に小・中規模大学の広報費比率も、きちんと考えることで1‐2%の比率に抑えられるのではないかということである。
戦略的な広報とは
自動車や住宅など、同じような事情にあるといえる企業と比べて、大学の広報費比率はなぜ高くなっているのであろうか。それは、広報活動が戦略的でないからだと思う。その例の一つは、無駄な広報活動が多いということである。例えばイメージづくりといった理由で、ターゲット以外の人たちに対する広報活動を行っていたり、同じターゲットに対して、いくつも重複した告知を行っていたりなど、あまり効果が期待できない広報活動にお金を使っているということである。
二つ目は、前回、戦略的ポジショニングについて述べたが、そこに向けた一貫性のある広報戦略が構築されていないということである。すなわち、経営戦略と広報戦略がリンクしていないということである。これがきちんとできていないと、目先の、対症療法的な広報プランの提案に惑わされてしまうことになり、イメージづくりを損なう、一貫しないメッセージを有料で発信してしまうという、もったいないことになるからである。
そして三つ目は、広報戦略に沿ったストーリーづくりができていない、大学内で共有されていないということである。これができていないと、パンフレットやホームページでの訴求力にも欠けることになるし、何よりも教職員が発信する、その大学の魅力の内容とその伝え方がバラバラになってしまうことで、無料で、しかも効果的な口コミを生むことができなくなっているからである。
このような状況をなくすためには、戦略的なポジショニングを目指す経営戦略を基に、受験生など、広報活動の対象となる人の視点に立って広報戦略を策定することが必要となる。そして、その広報戦略に沿ったメッセージをストーリーとしてつくりあげ、それを学内で徹底して共有することが求められる。
大学の情報は広報だけから発信されるものではない。すべての部署から発信される大学情報を、広報戦略の方向性の中に束ねることで、広報の効果は格段に上がると思われる。そしてその継続が、大学のブランディングになっていくのである。
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