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教育学術新聞に「経営と広報」が掲載されました

投稿日:2018年 09月 10日

教育学術新聞9月5日号に、「経営と広報」が掲載されました。

新聞がお手元にない方のために、全文を掲載いたします。

 

 

経営と広報

―適切な広報戦略を策定するためには

 

 日本私立大学協会主催の広報担当者協議会が、9月23日に開催される。私も第1回の時からアドバイザーとして関わっていて、その時々において大学広報が直面している課題や、持つべき視点をテーマとして取り上げてきた。そして今回の協議会では、そのテーマの一つとして学長と広報との関わりを考えるというものが設定されている。

 あまり取り上げられることのないテーマであるが、大学の経営と広報の連携が必要となってきた今日のような環境下では、非常に重要性の高くなってきたテーマであると思われるので、私自身もこの機会に考えてみたいと思い、寄稿した次第である。

 

大学のキャッチコピー

 私が四年前に学長として招かれた、群馬県高崎市にある新島学園短期大学のキャッチコピーは、「就職にも進学にも強い短大です」というものである。それ以前は、その短大の教育理念である「真理・正義・平和」というものをキャッチコピーとしても使っていたようであるが、抽象度が高く、大学を選ぶ側の高校生等に対して、入学することによって得られる具体的な価値が伝わりにくいと思われたので、変更したものである。

 大学のキャッチコピーというものは、大学内部でつくられる例もあるだろうが、大学案内等を制作する会社によってつくられている例も少なくないように思われる。それゆえに、その大学固有の強みとはあまり関連しないような抽象的なフレーズ、例えば、「未来の自分をつくる四年間」とか、「ここから始まる私の未来」といったような、どの大学にも当てはまるようなキャッチコピーが、多く出てきている状況がつくりだされているのではないかと考えている。

 前述の「就職にも進学にも強い短大です」というキャッチコピーは、実は私自身がつくったものである。私自身、そのようなことが好きであるということも制作した理由の一つではあるが、顧客や社会に知らせたい自学の価値、その大学のめざす姿といったものを表わすキャッチコピーは、具体的な表現はともかく、趣旨については、大学経営を担っているリーダーが関わるべきであると考えているからである。

 かつてのように、進学市場が売り手市場だった時代であれば、大学のリーダーである学長が、広報部門が、どのようなことを高校生等にアピールしているのかということなどは与り知らぬ、という体制であっても、それほどの弊害はなかったといえる。ところが、現在のように進学市場が圧倒的な買い手市場に大転換し、入学する学生に対して有用な価値を与えることのできる大学にならなければ、選ばれる大学になれないという状況下にあっては、どのようなことをアピールするのかということは、学費収入という主要な財源をどの程度確保できるかに関わる、重要な経営事項となるからである。

 言い換えるならば、自学がどんな魅力を持った大学であるのか、また、これからどのような大学を目指して歩んでいくのかといったことを表現するキャッチコピーが、大学のリーダーである学長が知らない間につくられ、発信されているということ自体が、極めて不適切なことであり、リスクのあることといえよう。

 

戦略的ポジショニングの重要性

 組織が発展していくためには、二つの要素が必要といわれている。一つは、戦略的なポジショニング、すなわち適切な組織の在り様がきちんと描かれているということである。これがきちんと描かれていないと、どこを目指してがんばればいいのかという諸活動の方向性が定まらないからである。

 そしてもう一つ必要なものは、描いた適切な組織の在り様を現実のものにしていく力、行動力とか協力し合う風土など様々なものを包摂する、組織能力といわれるものである。これがないと、戦略的なポジショニングが、絵に描いた餅に終わってしまうからである。

もちろん、どちらも重要な欠かせない要素であるが、大学の経営と広報の連携という面で考えるならば、どういう大学を目指して活動しているのかという、戦略的なポジショニングを明らかにすることが、先ずは大切ということになる。

企業広報戦略研究所が、2014年に行った企業の広報力調査では、情報を収集する、分析する、戦略を構築する、情報を創造する、発信する、関係を構築する、危機管理する、適切な組織や仕組みをつくるという、8つの視点から企業の広報力を分析している。この8つの広報活動の中で、日本企業が特に弱いものが明らかにされているが、それは戦略構築、情報創造、関係構築、危機管理の4つの広報力である。

 これについては、大学の広報活動においても、同じ状況があるのではないかと感じている。受験雑誌やパンフレット、ホームページといった媒体、そしてオープンキャンパスといった機会に情報を発信してはいるのであるが、それが一貫性のある広報戦略に基づいていないケースが少なくないように思われるのである。

私自身が体験したことであるが、パンフレットでは強調されている当該大学の特色について、オープンキャンパスで大学の説明をしている教員が、話の中でまったく触れないといった例なども実際にあった。これでは、聞いている高校生にも、その大学の強みは伝わりにくいであろう。このようなことが起きてしまうのも、戦略的なポジショニングが描かれていない、大学内で共有されていないということに原因があると思われる。

 

適切な広報戦略の構築

企業の広報力調査で出てきた8つの広報力の中で、最も中心となるものは適切な広報戦略の構築であると思う。なぜならば、情報の収集、分析は、適切な広報戦略構築のための準備作業であり、情報の創造と発信は、適切な広報戦略があるからこそ効果的になされ得るものだからである。また、利害関係者との関係構築や危機管理といったことも、適切な広報戦略の構築の範疇に含まれるといえるからである。同調査の結果でも、広報力の高い企業とそうでない企業との比較で、最も得点差の開いていた項目は、戦略構築力となっている。

では、適切な広報戦略の構築を可能にするためには、どのようなことが必要なのであろうか。それは経営と広報が連携、協働していくということである。大学が組織として、市場や顧客の状況をきちんと認識し、それに基づいて適切な目指すべき姿である戦略的なポジショニングを明確に描き、それを組織として共有することである。

そして広報は、大学が目指すべき方向に向けて行っている諸活動の状況や成果を情報発信するとともに、絶えず変化していく市場や顧客の状況を的確に把握し、分析し、それを経営戦略にフィードバックしていく必要がある。また、経営と広報が連携、協働できる組織づくり、仕組みづくりも欠かせないこととなる。

このようにして大学の経営戦略と広報戦略が連携、協働できるようになれば、経営戦略に基づいた、一貫したメッセージが継続して発信されるようになり、経営戦略がめざしている大学のイメージが、受け手である顧客側にもきちんと伝わるようになるといえる。そして経営戦略自体も、広報が感知した市場や顧客の変化に合わせて、より適切な方向に軌道を修正していくこともできるようになるのである。